銭湯

ある年、今日のように冷え込みが厳しい日に朝からずっと外で仕事をしていた。

すっかり冷えきり足の感覚もない。

愛車で会社へ戻る通り道に銭湯を見かけた。

お風呂セットを愛車に積んでいたので迷わず駐車場に入った。

3時を過ぎた頃で、番台にオジさん、女風呂には1人しかいなかった。

わたしはスーツを脱ぎお風呂セットを持って洗い場に向かう。

黄色のケロリンの少し重い桶はどの銭湯に行ってもあるものだな、とはじめて来る銭湯でも安堵を覚えながら

モクモクと湯気が立つ中で湯船に入る支度をした。

湯船に浸かり壁を見上げると何かの風景が描かれてある。

ペンキの筆の運び跡に見入りながら、こういう絵の練習はどうやってするのかと思い巡らした。

ペンキ絵はタイルを貼っているよりよっぽど銭湯に来ている感を満喫出来る。

モクモクの湯気で何の絵か分からずも湯船に浸かっていると、中にいた女性がガラガラと引き戸を開けた。

湯気は女性に吸い付くように一緒に出ていき、急に視界が明るくなり壁に描かれた絵がはっきり見えた。

壁の絵は数本の松の木が生えた砂浜で、海が遠くにもうし分け程度に描かれてる。

これではまるでわたしは砂浜で裸になっているようだ。

急に場違いのような気がしたわたしは、髪の襟元も濡れたまま早々に車に乗り込んだ。

裸になってもよい図案にしてくれたならもう少し温まれたかも。

そう思いながら車窓はわたしの湯気で白くなっいた。