口紅と時代

シャネルの口紅を18歳の時にいただいた。

「No 518」

大学生の私の素顔にその518を小指でうっすらつけていた。

4年間ともに過ごした518は卒業と同時に空になり、私は初めて自分で518をシャネルの店に買いに行った。

するとすでに518は廃番と言われ、似たような色かもと店員が出してきた色は518とは違い何も買わずに帰宅した。

518の口紅の空ケースはそれから15年ほど私の傍にいた。

大人になれば知らなかった色とも出会いがあり、518より気に入る色もあるだろうと思いそのケースを手放した。

それから10年経ち、たくさんの色が私の唇に色付けては通りすぎていく。

私が518を未だに求めているから他の色が仮色に感じるのか、

私の好きな色が今の市場に合わないのか、

その時にしか出会えない色があるのが時代ということなのかもしれない。

そしてもし、518を今私がつけることが出来たとしても

もう似合わない私かもしれない。