戦争の聞き語り

日本、終戦記念79回目。

もう79年経とうとしているのに、地球上では一向に戦争のない時代は一度もない。

私が中学生の時、国語の課題で「聞き語りで作文を書く」というものがあった。

自分ではない人の体験話を聞いて、自分のことのように文章にするというものだ。

書けるかどうかと思ったが、聞く相手を同居していた祖母に決めた。

「おばあちゃん、何か体験話を聞かせて。なんでもいいよ。」

「そうだねぇ。戦争の話かね。その頃は、おじいちゃんがたくさんお金を持ってこれなかったから、おばあちゃんが着物を仕立てる仕事をしていてね。

あなたのお父さんがまだ小さかったから、寝かしつけた後に裸電球1つで縫い物をしていたんだよ。」

「どうして電球1個なの?暗いよね」

「そう、暗いね。電球の明かりが外から見えないように布をかけてね。その頃は灯火管制というのがあって、夜、敵が飛行機で来た時に標的にされないようにって灯りを見えないようにしていたんだよ」

「それで、それで?」

「灯火管制がきちんとできているかを見回ることを当番制でしていて、私もあなたのお父さんをおんぶって見回りに行ったもんだよ」

私と祖母の聞き語りはこんなやり取りから始まった。

聞き進めると、今の時代とあまりにも違う暮らしだということ、

食べるもの、着るもの、お金の価値や、幸せが当然ではないということなど、

祖母の話は小さな器の私には大きく重たすぎる内容だった。

おじいちゃん、おばあちゃんの戦争時代の苦しい生活、

食事に苦労しながら、私の父をなんとか育てたこと。

おばあちゃんの人差し指の爪に大きな黒い筋ができているのは、着物の針仕事で、突き刺してしまったことなど、

祖母の話は私の器から何度も溢れ、ピリピリとヒビが入る痛みと苦しさで涙ぐんだ。

向き合いながら、どのくらいの時間が経っただろう。

目の前の皺々のおばあちゃんが逞しい人に見えた。

翌日、ペンを走らせたメモを見ながら、一気に作文を仕上げていく。

出だしは『灯火管制発令!直ちに灯りを消してください』という祖母の言葉から書き始めた。

課題の提出後、先生が「この作文はよく書けている」とかなんとかで、先生のお預かりものとされ、私の手元には返らなかった。

もう一度読みたいので名残惜しい。

この祖母からの聞き語りのお陰でそれまで戦争が過去の出来事と思っていたが、

戦禍の中、生き延びてきた祖父母がいるから今の私が在るのだと自分事に思うようになり、食べものを粗末にすることなどありえないと、残すことに罪悪感を感じるきっかけにもなった。

生まれた時からスマホのある時代の子供たちは戦争の聞き語りはできない時代に突入しているだろう。

戦争はもう2度としてはならない。

核戦争など絶対にしてはならない。

炎上させる力が今の時代にあるのなら、それこそこれに!ではないか?