深い思い出も、心のチクっとした切なさもないものが結局手元に残る。
好きだの嫌いだのや、思いが空回りしたものは何故か手元にはない。
それに紐づくものは捨ててしまう。
見てるとそのことを思い出してしまいそうだから。
それでも一番捨てたことを引きずっているのは10歳のころに貰った人生初のラブレーター。
送り主はとても好きだった男の子から。
でも、当時は思考回路が子供から大人にかわる時期で、先のことばかり考えてしまい、
交際をしてはいけないと思った(10歳だから!)。
好きすぎたのだと思う(10歳なのに!)
一歩踏み込めなかった私は、好きな気持ちをここで断ち切らなかったらこの先、これ以上好きな人ができないかもよ(おいおい!)、もう一人の私が耳元でいったのだ。
それで貰って2年後に捨ててしまった。
今もよくも覚えているのはそれほどチクっと、いやグサっと心に刺さったのだろう。
で、今、このラブレターよりも古い男の子からの贈り物を持っている。
50年以上経っているから半アンティークと言えるだろう。
今でもくれた男の子の名前をフルネームで覚えている。
カキヌキタキオくん。
舌が噛みそうなその名前をガギグゲゴの音感で私の脳裏に張り付いている。
当時、私は小学2年生の転校生でタキオくんとは1年間だけのクラスメートだった。
大した記憶もないタキオくんが何故、私の引っ越しの時にお母さんといらして
このジュエリーボックスをくれたのか、今でも謎である。
以降、実家の屋根裏部屋に置いたままだったので50年も生き延びたのだろうと思うが、
それだけでもない。
そのジュエリーボックスがとても私の好みだったからである。
金色、ピンク色、天使のレリーフ、金属製、猫足、中の赤いビロードの布張り。
もしこれらの要素がなければきっと50年も生き延びてはいないと言い切れる。
そして何より、タキオくんに深い思い出や、チクリと心に刺さったものがないからである。
他の女性はどうか知らないが、異性からのプレゼントはこういうふうにして生き延びていくものだろう。