やっと入った夏休み。
それなのに何故、早起きしてラジオ体操をしなくてはいけないのか、
皆が同じ行動をさせられることに口を尖らせていた。
寝ぼけながら着替えて顔を洗うと、夏は決まって鼻血がでる。
夏の私の風物詩。
ポタポタと洗面器に垂れる大さじ30杯分ほどの鮮血を見ながら、この分の血を作るのは大変だろうと眺めていた。
案の定、私の夏は貧血である。
体育館や校庭でじっと立っていると、パタリと倒れる。
ある時、体育館で倒れると担任の先生がやってきて私をお姫様だっこで体育館横の非常口に運んだ。
途中、朦朧としている私の耳に「重いな」と嘆く先生の言葉が。
私は背が低く、どう見ても力のなさそうな男性を避けるようになったのはこれがきっかけではないかと思う。
さて、夏休みの自由研究は何故あるのだろう。
宿題やら研究やらあるから、休みを心の底から愉しめない。
作文の原稿用紙のマス目をみていると角砂糖にみえて、『そういえば冷蔵庫にかき氷が入っていたな』そろりと台所へ。
台所の横では金魚が泳いでいる。
『あなたはいいね、泳いでいればいいのだから』、
恨めしそうに眺めていると先日買ってもらった水着を思い出し、鏡の前で着てみようと部屋に戻る。
赤い水着はヒラヒラのスカートがついて、背中は紐でクロスされている。
とてもお気に入りなのに、お腹の真ん中にどーんとネズミが刺繍されている。
このネズミがいなければ。
「何でネズミがいるのか!」私は夕方、仕事から帰宅した母に訴えた。
すると母は「どうせ水に入れば見えないでしょ」と言った。
『なるほど、確かに浮き輪で隠れるし、水に入れば見えないか』妙に納得した。
夏休み中のプール開きで、水着を着てはひっきりなしに陸へ上がらず泳ぎまくっていたせいで、25mの水泳大会に選ばれる羽目になってしまった。
ラジオ体操、宿題、自由研究、そしてプール大会と更に忙しさが増した。
休みにならないよと文句をこぼしながら、母が物干し竿から下げたばかりの床にあるふわふわの掛け布団に私は飛び込んだ。
ぷーんと懐かしい香りがする。
太陽の香り。
「あーぁ、このまま、ずっとこうしていられたらな」
布団にうずくまったまま目線を空に向けると、物干し竿に赤蜻蛉が止まっている。
『北海道の短い夏も終わりか。全く宿題をしていない』
寝転んでいる私は急に肌寒くなってくるのだった。