繋がる(初回)

4、5年まえに福岡市の通りすがりの展示会で工藝風向と書かれたDMを目にし、行ってみたくなった。

住所を頼りに辿り着くと、そこには民藝の珈琲カップや器などが展示販売されていて、

わたし好みの品がある店との出逢いは旅人の私に格別な喜びだ。

と、出口を出て振り返るとまたまた好みの香りがただよってくる。

珈琲美美(びみ)と書かれた珈琲屋。

一つ一つに異なる顔をした丸い煉瓦が組まれた壁と、入り口の扉と窓枠は歳月で墨色に染まっている。

その時は定休日で入れなかったが記念写真を撮っておいた。

昨日、再び訪れた福岡で散策していたら、その壁の美美が目に飛び込んできた。

灯りが見える。今日は営業している。

なんという再会だろうと迷わず扉を押した。

こざっぱりとした白髪で綺麗な髭を貯えた初老の男性がカウンター越しに無口に頷いて迎えてくれる、

と勝手に想像していたが、清潔感のある感じの良い若者の男性が片言の英語で外国人に並ぶように促し、

こちらに気がつくと「喫茶のご利用ですか?少しお待ち下さい」と微笑みながら丁寧に言った。

2階の喫茶の席につき、水を運んできた男性もこれまた若く、感じがよい。

1100円の珈琲。

メニューにあるその1行が、頼まなくてどうすると訴えてくる。

数年越しに店に入れたし、数年はまた来ないだろうからと自分に言い聞かせて頼んだ。

しばし、時間を持て余しはじめたころ「お待たせしました」とピンポン玉を半分にしたほどの

小さな黄金色のカップが目の前に置かれた。

溢さぬように持ち上げ、深くこっくりとした色をゴクリと喉に流すとビロードのような滑らかさで舌をゆっくりと這うように喉の奧へと流れていった。

味わったことのない美味しさだった。

早く流せと喉が催促するので確かめるように再びゴクリ。

1杯目とまた異なる味だ。

見るともうカップに少ししかない。

3杯目。ああやっぱり美味しい。何だろう。

確かめたくてもカップは空だった。

会計のレジ横に見たことのある文字が書かれている「大坊珈琲店」。

これは!まさか。

その大坊珈琲店に連れて行ってもらってからちょうど10年経っていた。

(続く)