BARは危険な香り

時折、BARにいく。

一人でBARに行くようになったのは30代後半。

東京青山の会社総会の帰り道に飛び込みで入ったのが始まり。

一軒家の古めかしくアールデコ的なその店は空気まで凛としている。

すっかり気に入り、会社を終えると月に何回かスキップして伺い、帰りは這って帰ったものだ。

超有名なBARだったと知るのはもっと後のことだった。

札幌に引っ越してからまだそのような物語のある行きつけのBARは見つけていない。

でも、先日、サウナ帰りのすっぴんで、BARに行きたくなりふらりとホテルのバーを訪れた。

カウンターに腰掛けると若手の女性バーテンダーがオードブル&フリードリンクセット2時間コースを勧めてくる。

いやいやフリーはいらないと断るのだがお得だと推してくる。

飲み放題コースというわたしの経験に少ないものを選んだのがいけなかった。

最初のウエルカムスパークリングを呑みながら、枕のように分厚いそのBARご自慢のカクテルブックを1ページから拝読。

カクテル名の由来が小刻みよく紹介されている。

へぇ、ほぉと頷いてスパークリングのグラスはすぐ空になった。

では次はこれ、とページに習いカクテル名を彼女に伝える。

暇そうにしていたことろカウンター越しに注文が入るので彼女も嬉しそうだ。

差し出されたカクテルをグイと呑みながらページはパラパラと数枚進む。

もう空だ。

読めば呑みたくなるカクテル名が出てくるのでまた注文。

パラパラパラと捲る。

彼女もグラスが空になるころ、次は何にしましょうか?と訊くようになった。

えーと次はね、パラパラパラとカテゴリーがウィスキーからバーボンに移った。

数回、やっているうちに気がついた。

グラスが普通より小さいことに。

3口で無くなるのだ。

ロンググラスも細くて低め。

パラパラパラと愉しんでもすぐ無くなるわけだ。

カテゴリーはテキーラからウォッカになった。

あらま、1カテゴリーに1つはカクテル呑んでいる。

ボンドマティーニの後は好物のフレンチ75。

ああぁ、もうカクテルページが無くなっちゃった。

「あのカクテルブックにないのですが、カサブランカつくれますか?」

こんな味だったかなと思いつつ呑み干した。

まだ7時、1時間しかたっていない。

「お客様、あちらの方からです」なんて甘く危険なご馳走をしてくれる香りは全然ない。

さ、帰りましょう。

タクシーで帰宅したことは覚えているが翌朝右腕にアザができていた。

若い飲み方をいまだに変えられない中年。危険である。