私の大学進学は木工の工芸デザインへ進みたくて東京のある大学を目指していたのだけれど、
両親は親元を離れて東京暮らしをすることに猛反対し、
私の選択肢が限られ田舎の自然が有り余っている処に立つ大学にした。
一人の大学生活。
初日からストーカーにあい、
通学時のバスの中では髪を切られ、
下宿場所を言いふらされ、
通いの銭湯の道では冷やかされ、
スクーターには五寸釘を打たれ、
カバンの中に知らない手紙を入れられ、
毎日が勉学どころでなく、
なんのためにここに来たのかと思った。
思って、思って、この大学を選んだことも悔やんで、
自分を嫌って、嫌って、外見もすべて憂鬱のタネだった。
ある冬の日、授業で山から伐採した長い丸太の樹を一本使うことになり、
自分で選んだ樹に金具をひっかけ引き釣りながら工房の台に乗せ、
うぃーんと機械で樹の皮を剥いだ。
黒かった樹がみるみる目の前で剥がれて美しい白になった。
見てて羨ましく思った。
私もこの台の上に横たわり剥いで欲しい。
本当の自分と周りが私に抱くイメージがあまりに大きく異なり隔たっていたから。
キャサリンなんて呼ばないで欲しい。
たちんぼなんて噂しないで欲しい。
週末はパトロンの家にいると揶揄わないで欲しい。
銭湯にも行きづらく、
スーパーでの買い物もしずらく、
校内も歩きにくく、
知らず知らずに私の住む世界がどんどん小さくなっていた。
全て剥がれた樹に触るとひんやりとした。
何を考えてこの樹は生きていたのだろう、
私に選ばれ、この台に乗せられたことをどう思っているだろう。
所々にある節がこの樹の生きてきた証に見えて、
もしかすると、今、この私の抱えきれない辛さや寂しさややるせなさは
この節のようなものではないかと思えた。
剥げばわかってもらえるのでは?
自分から剥いでみようか。
横たわる大きな樹を前に私の心はここに来て初めて前を向いた。
外に出ると陽が暮れはじめ雪はオレンジ色に染まっている。
その中を天使がたくさん空から降りてくる。
ダイヤモンドダストを初めてみた。