蜻蛉が飛んでいる。
秋が来た。
わたしはとても忙しい。
忙しすぎると何処か余裕がなくなる。
料理だったり、運動だったり、創作時間だったり、
本を読むことや、手紙を書くこと、相手を思いやることも。
あれこれ学んでいる授業にもブツブツと文句が出るようになる、自分が望んで受けている授業だというのに。
そんなところへ聴こえてきた口笛。
コロナ禍前に数回、家の窓の下を通る誰かが、とても上手に口笛を吹き歩いていたことを思い出した。
綺麗な音色で巧みに鳴らす音は本当に上手。
久しぶりのその口笛に「ハッ」とした。
口笛の優しさ、
温もり、
生の音、
散歩がてらに鳴らす心、
マスクをせずに鳴らせるようになった今、
そして、他人を、
自分でない誰かにも快適にさせる行動に。
すると忙しい忙しいと余裕なくなっている自分が滑稽に思え、
窓から口笛の主を探してみた。
いない?
そこには私が想像していた口笛おじさんはおらず、
登山の帽子をかぶって装備している、山登り風おじさんがいた。
そうか、山登りおじさんは気兼ねなく口笛を吹くために山に登っているのか。
そう思うと忙しい日々も山に登っているようなものだと思えた。