わたしは高校生の頃にある絵本に心を救われてから、ある系統の絵本がとても好きになった。
それから間も無くして「こども冨貴堂」と出逢うことになり、
その小さくて真っ赤なドアを開くと店長と子ども連れの親などでいつも店内は温かい空気で賑わっていた。
どういう流れか覚えていないが、18歳の私に店長は名刺をくださり、「頑張って」と声を掛けてくれた。
その名刺は今も袖机の中にある。
その時、”私も誰かにポッと温かい場所を作れたら”と思ってしまった。
その思いがコツコツと絵本を集めるきっかけになり、300冊はあろうという数になっていた。
20歳代の時に、一度その場所作りをイメージしてみたが、環境は整わなかった。
30歳代の時、そんな思いは彼方先のことになり、
40歳代の時には、絵本を通してその場を作ることは私のやりたいことではなくなっていた。
そして50歳から、自分の集めた絵本を数冊手放してみた。もっと心が痛むかと思ったが、意外と大丈夫で、あぁこれで本当に自分のしたいことではないのだと改めて確認できた。
60歳を間近にした今、数日かけて1000冊ほどの真新しい絵本を一冊一冊選り分けた。
幼少時に生まれて初めて選んで買ってもらった絵本「長靴をはいた猫」や、何故だか好きな「モチモチの木」など
お気に入りの海外の絵本作家さんの数冊は残すことにした。
段ボールに詰めながら、あの「こども冨貴堂」の真っ赤な扉が箱の底に浮かんできた。
私はあの場所をつくることはできなかったけれど、この絵本たちが誰かの心を愉しく、救ってくれるならどんな形でも構わない、とそう思った。
絵本も眠り続けるより、早く開いてほしいだろう。