8歳から祖父母と同居を始めた頃、
長い廊下で繋がる祖父母の部屋に行くのは探検のような愉しさがあった。
その中で寡黙な祖父の行動は特に不思議なことがある。
読み物は新聞以外にオール読物、
喜怒哀楽はお相撲テレビ観戦、
食事のあとの「うまかった」の言葉、
数々の中で、強烈なことは毎晩の枕に載せる紙だ。
祖母は夜の寝床を畳の上に2つ作ると最後に祖父の枕の上にカサっと一枚のチラシを載せるのだ。
そのチラシは白黒印刷で裏は白紙の硬い紙だ。
枕の上の紙の上に祖父は頭を置いて寝るのだが何故その紙を置くのかわからない。
頭を動かすたびにカサカサと音がするではないか。
祖父は気にならないのかと気になった。
毎晩、祖母は溜めたチラシの束から一枚抜き取り祖父の枕に載せる。
私は続くその儀式の回数とチラシの残り枚数がいつまでも続くのだろうかと気になり始めた。
もしチラシがなくなったらどうするのだろう。
チラシの代わりはあるのだろうか。
私の心配をよそにいつの間にかチラシはカラー印刷になっていた。
祖父は何故頭の下にチラシを置くのだろう。
数年後にあとから母にこのことを話すと枕の汚れ防止とわかった。
なるほど、
白黒印刷の裏側が白いカサカサのチラシよりも、
両面カラー印刷のチラシの方が吸い込みがよくないと漏らしていた祖母の言葉が理解できた。