先日、春の雨で肌寒く、すっかり冷えたので銀座の鰻屋へ駆け込んだ。
鰻が焼けるまで一杯できるぞとほくそ笑み、熱燗を小さなお猪口でぐびっと体に流し込んだ時、
視界に一人の年配の女性が、鰻がテーブルに運ばれるのを何も飲まずにつまみを食べ待っているのが目に入った。
すると、何席か離れた男性が待つ席に入り口から駆け込んできた女性が腰掛けた。
年配の女性はその駆け込んだ女性を口に運ぶつまみと同じように、ちょこっと視ては飲み込んだ。
食べて、視て、飲み込む、食べて、視て、飲み込む。
駆け込み女性の方も年配女性の視線が気になるのではと思うが一向に気にせず男性に話かけている。
助け舟のように年配の女性の前に鰻が運ばれてきた。
これで年配女性は視るのをやめるだろうと安堵していると、
鰻を食べて、つまみを食べて、お茶をすすりながら駆け込み女性を視る。
食べて、食べた、すすって、視る、食べて、食べて、すすって、視る。
年配女性はいったい駆け込み女性の何を視ているのだろう。
何がそんなに気になるのか。
人の興味はその人にしかわからないものだ。
かくいうわたしも飲んで、つまんで、視ていることに気がついた。