グランマモーゼス展効果

過去を振り返らなければいけない5年間分の日記など、誰が買うものかと毛嫌いしていたが、

先日、世田谷美術館のショップで衝動買いしてしまった。

買って後悔するかもよと耳元で囁きも聞こえたが、帰宅して1ヶ月経つが今のところ後悔はしていない。

毛嫌いしていたのにすごい変わりよう、どうしたことか?と自分でも驚いている。

そう、きっかけは世田谷美術館に行った目的、「グランマモーゼス」様の回顧展を観たからだ。

農業を夫婦で行いながら、片手間に刺繍、そのうち高齢になると台所で油絵を描き始めた。

その絵が彼女の懐古的な記憶から描かれたもので、結婚した当初からその後の生活、子供の巣立ちと、

続くは続く、人生のストーリーが深く太く、長く。

私は美術館の壁を舐めるように観ながら進んでいたら、ふと、自分の人生はこの先、懐古的に思い出せるものになるのだろうかと思った。

昨日の晩ご飯を忘れ、贈ったものを探し、誰が、何がと、とんと自分のこと以外は記憶に残らないことが増えている近頃、わたしの感性はいったいどこへいったのだ、と本気で嘆いていたところだったので、

100歳過ぎまで絵を描いていたこのモーゼスおばあちゃんは物凄い人だとつくづく感心した。

圧倒され展示の最後の壁を出ると”待っていました”とばかりモーゼスのグッズが売っていたのだが、

良い感じで衝撃を受け、ふらりふらりと出口の方へ吐き出された感じで飛び出ると通常のショップがあり、

そこにあったのだ、この5年日記。

開くと、尊敬する暮らしの手帖の初代編集長、花森安治さんのイラストとコメントが書いている、優しい感じの本。

5年の重石をのせてやるぞー、見ろー、と迫ってこない感じがした。

と、いうわけで、今から5年書くと、私は還暦。

ちょうど区切りも良さそうということで赤色を選んで、今、それは、机の上で待っているのだ。

私が書き始めるのを。

よし4月1日から書くぞと決めている。

何より5年振り返れるほどの濃い人生を歩まないと余白ばかりがある日記になってしまうからね。