想い出す笑顔

芝美さんへ

昨年の「なかなかおいしい」という唐突なラインが届いたけれどあれは書き間違いだったの?

昨年の秋からラインのお返事がなかったので気にしていたよ。

「わたしね、脳の手術で奇跡的に助かってね、でも長く生きられないの」なんて昨年の夏に

少女のような声で話してくれたから気になっていたの。

芝美さん、

わたしはあなたに何度、助けられただろう。

私たちが出逢ったのは世間から隠れるようにバイトした早朝の工場でだったね。

わたしは27歳、芝美さんは35歳。

あの時、お互い、大きな人生の節目だったから、辛い工場の仕事さえも辛く感じなかったけれど、

あなたがいつも笑顔で率先して仕事をしていたから、工場もちっとも怖くなかった。

お互いの家に招きあってたから、すぐまた連絡取れると思っていたのに、

芝美さんがインドに行って帰ってから連絡がわからなくなって、

あなたを探して再会できた時も、あなたは変わらずに笑っていたね。

頭の回転が早くて、人に分け隔てなく愛を与える人。

だから、わたし、あなたに心の根の部分を話せたのだと思う。

4年前に私の家でお話しをした時に、とても私のことを見て理解してくれていることに驚いたけれど、

私はあなたを理解できていたのでしょうか?

私はあなたからみて必要な友人だったのでしょうか?

ねぇ、芝美さん

5年前に亡くなったお父さん、お母さんに最近会いたくてと言っていたけれど会えましたか?

一隅を灯すという禅語が好きだと言われていたでしょう。

みんなを愛してねとも。

私、時々、とても忘れるの、やさしさを。

そんな時、芝美さんが好きなこの禅語を思い出している。

あなたにはたくさんの感謝をしても、しても、どんなにしても、足りないです。

いつも笑顔のあなた、目を閉じると浮かんでくるよ。

でも、まだまだこの先も、話したかったのに、話せると思っていたのに。

もう探してもこの世にはいないんだね。

唐突なラインの言葉が、最後だったなんて。

あちらで美味しいものを食べているの?

幸せなの?

それなら私、寂しさは我慢しないとね。

でもきついな、心友のあなたともう話せないなんて。