一番の心意気

昨日、羽田空港から個人タクシーに乗った。

すぐにその運転手のサービス精神と運転のうまさが伝わってきた。

行き先を告げると、道や建物をよく知っている。

実は、数日前、地方のとあるタクシーに乗って道をぐるぐるされたり、

近場の行き先を告げると舌打ちされたことなどがあったので、今日の運転手と雲泥の差だなと、感心していた。

安心感をみなぎらせる今日の運転手にその話をしてみると、彼は以前はホテルのサービスマンだったそうで、

タクシーの運転手はお客様の命を預かりながらの究極のサービス業だと思うと言われた。

そして、舌打ちですか?そんなことを東京でしたらやっていけないですよとも言った。

関心している間もなく、彼は続けて、最初はタクシー会社に入ったが2ヶ月で辞めて個人タクシーになろうと決め、

個人タクシーには地理の試験があり、有名場所は8000件くらいを一年がかりで覚えたという。

すごいプロ意識だなと関心を飛び越えていると、彼は呟いた。

「やるからには一番にならないと」

この、一番にならなければという気持ちは私にはあまりない。

身体中揺さぶってやっとポロンとでてくる破片程度で、何くそという大きな塊のようなものがない。

思えば子供の頃からも「一番になりなさい」と親に言われても何で?と思うような子だった。

部活をしていても試合で一番を意識したことはなく、時々1位、その他2、3位をとりビリにはならない。

その反面、自分の想い描く技をこなすのに、自分の体の骨格が向いていないとわかると体の骨を削れないかと思い悩んだことを覚えている。

今思えば削りたくなる思いは何の気持ちからだろう。

ぼんやり高速道路から見える建築中のビルを眺めながら思っていると運転手は話しかけてきた。

「タクシー会社の運転手に自分の売り上げを訊かれて売り上げを話すと皆びっくりするんです。わたしは皆の約3倍は売り上げますからね。

個人タクシーですからそれがそのまま給料に直結するんです。安全な運転をするために道や地理を覚える、お客様に安心してもらい目的地までお運びする、まさに自分のしたことが成果になるんですから」

私は彼の言葉を聞きながら夕暮れの空に流れる雲の形を目でなぞっていた。

何の形だろう、動いて集まる雲さえも何かを成し遂げようとしている生き物のように見えた。