着物と草履

50歳を過ぎて着物を着る暮らしをしたいと思いついたのは30歳の時である。

” 女、50にして立つ” 

こういうと聞こえはいいが「あなた! 着物を装えるような人になってなさいよ」と

未来の自分に賭けをしたのである。

着物への興味は100%母からと言える。

わたしの母は嫁いで早々、父の上司の奥様に「これからの女性は手に職をつける時代ですよ」と忠告され、

母は着物の着付けを勉強し先生となり、着物の販売の仕事を始めていた。

子供のながらも着物で働く母の姿はなんとも女性らしくて素敵に目に映った。

30歳の私はすでにインテリアの仕事をしていたが着物で新築工事現場に行くなどあり得なく、

打ち合わせに着物で行くなどまさかの話だったので

” 50歳の時には着物で仕事や生活ができるようになっていたい "と憧れと自分に課す想いを抱いたのである。

着物というものは襟付け、手入れ、保管に時間も手も掛かり、はいクリーニングと気軽にいかない。

仕事の打ち合わせに容易に着ていくこと相手を驚かす難しい代物。

それを難しくない存在にしたいというのだからどうするの?と50歳が近づく自分に訊いていた。

とりあえず、着てみよう。

去年からポツリポツリと着始め、月に1度は最低着ること。毎週1回は着物を勉強することをしている。

先日、実家の母から着物や草履を数点譲り受けた。

すると見ていた父が着物が入っている桐箪笥一本ごともっていってくれないかと言う。

老齢だから断捨離をしたいとのこと。

いやいや父よ、着物の付き合いは試運転の身である。

50歳にして立つのが箪笥の方が先では困るのだ。