あんぱんの出世

大学生時代、一人暮らしの食材を買いにスーパーで見つけた地元メーカーのあんぱん。

手のひらくらいのサイズで、漉し餡が型に入ったようにビシと固まっており

その周りを剥げたレザーの財布に似た、少しくたびれた小麦粉の薄皮が付いている。

包まれたビニールを剥がすとそのレザーも一緒に剥がれてしまう、不思議な完成度のあんぱんである。

でも味が気に入り、そのレザーの不出来も気に入ってスーパーに行く4回に1度は家に連れて帰っていた。

食材を買って夕食を作るまでお腹が空いて待ちきれず、あんぱんを食べながら食事をつくったことは数知れずある。

まさに大学四年間の友の一人という存在なのだ。

その友のあんぱんは時折、大きなスーパーのレジの横や飛行場のお土産売り場で見かけるようになった。

姿をみては「よ、友あんぱん。随分、出世したものだな」とこちらの変わらずの有り様には比にもならないほど

友のあんぱんは偉くなり、賞もいくつか貰っている。

そんなあんぱんを見かけるたびに「懐かしいよー」と手を出して友を連れて帰るなど、まだ私には早いと言い聞かせていた。

そうこうして気づけばもう30年経とうとしているではないか。

遠慮していたら食べすにこちらが天国に行くことになるかも、ふと思い先日、飛行場で友のあんぱんを買い求めた。

なになに、知らない間にあんぱんは5種類にも増えている。

わたしの友あんぱんは、普通の漉し餡だけだったが、他はどんな味がするのかと5種類全部買って持ち帰った。

はじめましてとカボチャのあんぱんのビニールを剥がしてみると、あれれ、ビニールに皮がつかない、

しかもあんぱん、随分ぱんぱんに太ったな、皮も厚いではないか。

もう一つゴマあんぱんを食べてみた。

んんん、可もなく不可もなく。

あの時の友の姿とはかなり違い、味もこんな感じだったか?

皆、きちんとビニールを身に纏い、体をぱんぱんに張って、昔の剥がれたレザーの面影は微塵もない。

これが、あの、友のあんぱんの兄弟か。いや姉妹か。

明日、友あんぱんを食べてみよう。

出世すると様もかわるのだろうか。