お菓子の缶の隅

当時、一年ごとの親の転勤で引っ越しを繰り返す生活をしていた。

私が小学一年生になると母は手に職をつけたいと着物の着付けの資格習得とパートへ出るようになり

私たち姉妹は杉並区でも当時はまだ珍しい鍵っ子としてデビューした。

私たちの周りには鍵っ子がいなかったので鍵っ子の過ごし方がわからない。

空想系の姉妹は帰宅して宿題など殆どせず、「さて何して遊ぶ?」が毎日のテーマになっていた。

その鍵っ子に合わせて母は「おやつの缶」というのを作りいつも缶には何らか入っていた。

姉はスナックのお菓子が大好きで、おやつの缶にそれが入っていると私の分まで食べてしまい

私は缶に残されたお菓子の死骸みたいな黒い塊を「なんだこれ」と避けていた。

その黒い塊が黒糖かりんとうという正式なお菓子だということをしばらく後に知ったのだが

留守番する子供のおやつにこれはないだろうと小学6年生になると想っていた。

 

缶の中のスナック菓子はアイドルのように目まぐるしく現れては消えてゆく中で

黒糖かりんとうは長老を超えて仙人化し誰も食べない。

母が毎回新しい黒糖かりんとうを入れているとわかっていても同じものに見えて仕方がなかった。

鍵っ子を卒業する頃、その黒糖かりんとうは母の自分のためのおやつだったことに気がついた。

今も老いた両親の住む実家に帰るとおやつの缶がある。

時折、蓋をあけるとかりんとうが入っている。

私も手を出し摘むようになった。