水玉には変わりなく

じっとするメイクのモデルはなかなか見た目よりも大変なもので、

720時間のステージ上での佇まいと、メイク準備を含めるとかなりの時間を顔に意識を集中する。

身体もそれにつられて緊張するものだから最終日には頭痛までするほどの肩こりになっていた。

こりゃひどい。

観念していつもの駆込み寺ならぬ、頼みの綱の鍼灸に足を運んだ。

先生は相変わらずマシンガントークをして鍼の刺す怖さを紛らわしてくれる。

ただ時々鍼を取り忘れていることもあり、今日も「先生、まだここにあるような感じ」と指さすと

「あら、本当だ」と言って抜く様を見ると案外マシンガントークは怖さの紛らわしでないのかも?と思うこと15年続いている。

この日は無いことに置き鍼までされる重症だったようで時間がいつもよりかかってしまった。

治療の後にネイルケアの予約をしていたため先生にもう着替えなくては!と急かし、

私は慌てておろし立ての水玉のワンピースを頭から被りコートを羽織って向かった。

ネイルサロンに着くとコートを受け取りながらスタッフの方が「春らしい装いですね」と私をみて声を掛けてくれた。

久しぶりに水玉のワンピースなど着ていたから私もニコリと頷きソファに腰をおろした。

ネイルが仕上がりコートを羽織って帰路の途中の蕎麦屋の誘惑を頭で振り払い家に着いた。

気になっていたがどうも首が苦しい。

鏡に写してその姿をよく見るとなんとワンピースを前後間違えて着ている。

背中が大きく歪みながら開いているではないか。

ゲゲゲ、これで蕎麦屋に立ち寄りコートを脱いでいたら大変な笑者になっていたぞ

誘惑に打ち勝って帰宅した自分の頭を改めて撫でて褒め直した。

それにしても、

ネイルサロンのスタッフはこの大きく開いた背中をみて「春らしい」と思ったのか。