先週末の銀座での仕事場が行きつけの焼き鳥屋のそばということもあり
初日の仕事を終えた安堵と夕暮れ前の時間に飲み始める醍醐味の誘惑でその焼き鳥屋でつまんで帰ろうと店によった。
わたしがカウンターで美味しくかぶりついていると大きなリユックを背負った男がドスンドスンと店に入ってきた。
女将さんはちらりと見てカウンターでいいか?と一番入り口側の席に座らせた。
その男はメニューを開き、図鑑でも見入いるように丹念にページをめくりビールと焼き鳥を5、6本を頼んだ。
目の前に注文の品が置かれたびに携帯カメラで写真を撮っている。
あぁ念願のお店に来た人なのかもと思っているとクチャクチャと大きな音を立てて噛み始めた。
先ほどまで至福の雲の上で心地よく喜んでいたわたしは雲に穴を開けられた気分で景色が変わってゆく。
その男は2席離れたわたしをありえないほどガン見して、ガン見しながらまたクチャクチャと食べ続ける。
すると今度は「ウンメェーーー」とヤジのような声をあげた。
そして口の中が空になるとまたウンメェーとヤギが鳴いた。
ウキウキの焼き鳥時間がどんどん様変わりしていくのがわかる。
食事が一区切りしたわたしはその男より先に席を立つとなんだか何かに負ける気がして男が帰るまで
留まるぞと自分のボトルの中身を時間かせぎにグラスに注いだ。
30分ほどだろうか、そのヤギ男は最後までクチャクチャとウメェーを繰り返し、大層満足して出て行った。
ほ、やっと帰れるというころにはボトルの中身は想定外の量が減っていた。
それからの帰路と次の日のわたしはヤギ男よりなんで先に帰らなかったの?と自分に問い詰めた有様であった。