井の頭線を走る電車が台所の窓から見える。
師走30日を過ぎると夜走る電車内には人影がほとんどないまま渋谷に向かう。
渋谷からくる電車にも人影はまばらだ。
師走の最終日31日には座席の桃色がよく見えるほど誰も座っていない。
一日そんな電車が行き交うので、車掌さんは運転し甲斐もないだろうなと思いながら台所で茶碗を洗っていた。
正月元旦、もう誰も乗っていない。
なんだか電車が走りたくて仕方なく線路を行き進んでいるかのように見える。
翌2日も電車の車窓の向こう側まで見通せる。
電車は軽々好きなように走っているよう。
3日になると桃色の座席が歯抜けのようにまばらに黒い。
人がパラパラ乗り始め、走りたくてしかたのない電車は元の人の意思で動いている電車に戻っていた。
これが明日には渋谷に向かう電車内は人でぎゅうぎゅうで
夜には吉祥寺に向かう電車も人でぎゅうぎゅうで車窓からは桃色の座席など見えやしないのだろう。
電車も束の間の休みだったな。