店先にとても大事そうに包まれた桃を見かけると思い出すことがある。
私が7歳のころ、同級生の男の子が家から学校に大きな桃をもって来た。
男の子がそれを私に差し出して言った
「知ってるか?桃を頬に撫でると気持ちいいんだぞ」
果物を頬に撫でることなど想像したことがなかった私はえらくその男の子に感動した。
どうしてそんな発想ができたのだろう。
微動だにしなかった私を彼は怪しいと思われないように直ぐさま続けて言った
「やってみろよ」
桃を手に受け取ると白く光った産毛がびっしり見えた。
ゆっくり頬に当てた私に彼は少し丸い声で言った
「当てるだけでなく擦るんだぞ」
私は言われるがままに擦った。
チクリ。
経験のない痛みが頬を刺した。
慌てて頬を手で触るとなんとも不快な痛みが走る。
私の顔が歪むのを見た彼はやった!引っかかった!とばかりに飛び跳ね
手から桃を奪って走り去った。
ジリ、チクリ。
ジリジリ、チクリ。
触るたびに産毛が頬に突き刺す痛みが走る。
どうなるのだろう私の頬は。
不安を抱えながら家に帰宅して母に告げた。
母は私の頬を見もせずに言った
「バカだね、痛いに決まってるでしょ。そのうち取れるわよ」
バカだねの言葉がチクリと心に刺さった。
そんなこと考えればわかるでしょ、信じるあなたがおバカさん、と聞こえた気がした。
頬の痛みは夜には取れたけど
以来、桃を見ると想い出す
心に刺さったチクリがしばらく抜けなかったことを。