20年ぶりに
長らく住んでいた札幌の好きだったケーキ屋に行ってみた。
女性一人で切り盛りしていた昔はケーキのショーケースの上に「お決まりになってからお声掛けください」と
忙しいんだから声かけないでというような店主の忙しさと生真面目さがひしひしとした店だった。
店も店内も当時とあまり変わらない。
恐る恐るケーキをくださいと声をかけるとやはり一人でいる店主の女性は今日は3種だけありますよと返してくれた。
ちらりと見る横顔は当時とあまり変わっていない。
「3種一つずつください」
久しぶりだったので一人では食べきれないとわかりながらも注文すると
梱包に時間がかかるから座ってお待ちくださいという優しい声をかけてくれた。
うなづきながらも店内をぐるっとまわった。
25年前に私が勤めていた食器屋で販売していたスウェーデンのコスタボダ社製のガラスボールがあった。
私も大好きで買った品だ。
当時の食器を使っている店主に何だか声をかけたくなり
「この食器はヴィエンヌで買いましたか?私も同じものを持っております。
コスタボダではこのラインはもう作っていないんですよ」と私は言った。
すると店主は
「自宅にはボールや皿があります。そうですか貴重なのですね。大切にします」と応えた。
レジ横にあるショップカードをそっと財布に忍ばせていると店主がこちらにきてケーキを渡しながらショップカードをレジ横から一枚とり渡してくれた
「今日水曜日は予約のケーキを渡すだけなのですが他の曜日はこちらに書いてあります予定でお作りしています。よかったらどうぞ」
帰宅してテーブルにケーキとショップカード2枚を並べた。
ちょうど西陽が窓から差し込みテーブルをオレンジ色に照らしていた。
私は同じ女性として店主がこの20年ほどどんな人生を歩んできたのだろうと想像してみた。