人の目

当時、私は外資系商社のインテリアデザイナーをしておりました。

もっといろんな人の暮らしにセンスと洗練された空間を提供できるようにしたいと

法人事業部の設立を社内に願い、そして担当になりました。

主の顧客は主にデベロッパー、住宅メーカーなのですが、殆どゼロからの新規開拓です。

私は一番取引したい業界ナンバー1の大手住宅メーカーにツテもなく電話を掛けました。

新宿本社にご担当の部長さんと会うまでに漕ぎ着けましたが下請けの会社を通して取引をしてほしいと言われ、その下請けの会社を紹介されました。

帰り際、その部長さんが私に「いやね、そこの社長、悪い人ではないんだが結構キツくてみんなお手上げになるんだが、君はどうかな」と言いました。

帰社してその社長にアポイントを取ると電話の対応で部長さんの心配がなんとなくわかりました。

その下請け会社の社長さんは朝8時から9時の間しか会社にいません。

電車で1時間半かけて伺い、5分の話しをしておしまい。

そんなことを何度か繰り返し春の花もすっかり紅葉になり、やっとお取り引きいただける商材、体制、価格、社内稟議などが整い、冬に大手住宅メーカーのインテリア相談会にでることができました。

嬉しいのですが喜んでいる時間がないほど大変でした。

その社長さんに「いいか、失敗したら2度と取引しないからな」と言われておりましたので

もう何日も前から準備をして、気も張っておりました。

2日間の相談会が無事に終わり、納品もミスなく終えました。

それ以降、2度ほどインテリア相談会に出させていただいたのですが

私は体に無理をさせていたので知らぬ間に白血球がどんどん減ってドクターストップがかかってしまいました。

休職することになって、休職中に頭に浮かぶのは住宅メーカーの部長さんとその下請けの社長さんのことでした。

志半ばとはこのことだわ、ご迷惑お掛けしちゃったと退職時の挨拶もできないことが心残りでした。

それから5年ほどしてインテリアメーカーの方からその下請けの社長さんの話しを聞く機会がありました。

その方は「大手住宅メーカーのインテリア相談会の開催挨拶でいつもあなたの話しをしているんですよ。あなたのように仕事に喰いついてやり遂げる人になれと」。

私はそれを聞いて、ずっと喉にひっかかっていた魚の骨がするりと外れた心持ちになりました。

表向の態度ではわかりませんでしたがその社長が見ていてくれたことに大変嬉しく思いました。

そしてご迷惑かけたことばかりでなかったと知りました。