この七日間、根を詰めて寝食以外はほとんどティーカップの絵付けに励んでいた。
左手の親指が時折、”過労です”と訴えてくるのだが聞こえないフリをして働いてもらった。
仕込み作業が終わり、大きなトランクと中くらいのトランクにティーカップをパンパンに詰め
旅先に引いてゆく準備が整った。
旅にトランク2つを引くのは初めてだ。
玄関を出るとまるで好奇心旺盛の大型犬と融通の利かない小型犬を連れて歩いているように
2匹を連れて歩くのは先が思いやられた。
駅の階段では登れませんと座り込み、下り坂では急に駆け出す。
電車内では落ち着きなく動き回り隣の人の足にもたれかかる。
旅先に着いた時には私の両腕は筋肉痛になっていた。
ティーカップらは旅先で新たな環境へと巣立っていきトランクの中はすっかり軽くなった。
帰りは楽だと思っていたところ、犬2匹は”もう歩けない。おんぶ、だっこ”と言い始める。
過労ですと言っていた親指は声を潜めている。
”もう、みんな疲れているんだから歩きなさい”とグイグイ綱を引っ張り
歩きながらヒックリ返ったりとじゃれ合う犬たちを連れて家路に着いた。
部屋に入ると一緒に歩いていた2匹の犬はすっかりトランクに戻っている。
「やはり旅はトランク1つに限る」つぶやきながら湿布をペタペタ貼る夜だった。