片目を閉じて

「お世話になりました」と若かりし頃、三つ指ついて家を出たことがある。

その時、母がこう言った

「交際時期は両目を開けて、結婚したら片目を瞑るんですよ」。

なになに?片目を瞑る?

交際時期で片目をつむっているのに??と思った。

その時点でそもそも間違っている私なのだが、

そのまま続行していると母の言葉を思い出すことが起きた。

そうよ、片目を瞑ってね、わたし。

はてさて、片目なんか瞑っていられない、だって危ないんだもの、

ほら、横から車が突っ込んできた!

「ねぇ、起きて!あなた寝ている場合じゃないでしょ!私を守らなくてどうするの‼︎」と横にいる彼を突く。

私の、その日々は片目など閉じれる日は一度たりともなく

こっち!

あっち!

と信号機のように目を大きく開けていた。

 

「お母様、ただいま。

わたし、目を瞑るなんて無理よ。

自分で運転したいのだもの」。

あぁ、当時は瞑ることの機微さえ、わからなかったのね。