あぶないあぶない

青山の本屋さんで本を見ているとあれこれ冒険した気分になる。

その冒険気分のまま、行きつけの蕎麦屋まで歩いた。

店内は混んでいたが、目をやるといつも座るカウンター隅の席が空いている。

あそこでと自ら指差し、案内されて座る。

今日はいきなり日本酒2合を頼んだ。

鞍掛豆をつまみに、日本酒を大きな徳利で注ぐと

おちょこはすぐにいっぱいになる。

買ったばかりの007の雑誌をパラリとめくって

至福だーと声を殺して喜んでいると

同じカウンターの空いてる席に初めてきたと思われる男性が一人腰かけた。

カウンター越しに女性スタッフに話しかけている

「あのー、この日本酒と豚の角煮をください」

そわそわして落ちつかなさそうな素振りを見ると、やはりこの店は初めてなのだろう。

ふふふ、いいね一人呑み!と心で加勢していた。

男性は手持ち無沙汰そうに角煮をつついて食べたり、休んだりしている。

パラリパラリとめくる私の雑誌に視線を投げかけ、女に負けんぞという姿勢で徳利を傾け呑んでいる。

男性の徳利が空になり、女性スタッフにまた声かけた

「メニューにない、何か美味しいお酒ありますか?」

スタッフは「あ、はい、ありますよ。辛口で端麗なのでもよいですか?」

「じゃあ、それで」と男性。

男性は運ばれてきた1合をくいくいとあおり、蕎麦をずずずーと音をたて食を終えた。

席を立つ時にその女性スタッフに

「最初のお酒の方が美味しかったな」とコメントして出て行った。

横顔で聞いていた私はチャプンと自分の徳利を振ってみた。

あーまだ愉しめる、至福だなーと心で叫んだ。

「このお酒いかがですか?」と危うく冒険のノリで男性に声を掛けなくてよかった。