上皿天秤

「うわざらてんびん」

この言葉の響きが好きで、

どう使うのかなど理解もそっちの気で

ピンセットで摘むには少し無理のある重めの分銅の固まりをゴンと皿に置いては

片方の皿の上に置く物をきょろきょろと探して手で載せる。

このうわざらてんびんはもっと違うことにも使えるに違いないと思っていた私。

そんなことを考えていた私のことさえ忘れていた。

今日、骨董市でうわざらてんびんが売られていた。

きちんとお行儀よく、ロシアのマトリョーシカのように

だんだんだんだん、と子供から大人の分銅が頭だけだして木箱に埋まっている。

天秤も綺麗に健在だ。

ほほぉーうわざらてんびん!30年ぶりに観るなぁと感心していると

私の横に同じようにしゃがんで座ったおじさんが売り子のお姉さんに話し掛けた

「これね、何量るか知ってる?

ほら、これみて、これが僕の結婚指輪。そしてこれが妻の結婚指輪。

載せてみるだろう、どっちが重いと思う?

そう、大きい僕の指輪の方が重いんだ。

だからね、男っていうのは責任が重いんだよ。ね、わかる?」

話しかけられたお姉さんは驚いたのか声がない。

するとお姉さんはごそごそと自分の指から結婚指輪を外し、妻の指輪と交換して皿に載せた。

「そんなことないですよ、オジさん。ほら、私の指輪の方が石が付いている分、重い!」

おじさんはしばし逆転して持ち上げられた自分の皿を見つめていた。

そして皿から自分の結婚指輪をよけ

「なるほどなぁー、いや参ったなオネエさん。あンたみたいな人だったら

僕も別れずに済んだかもしれないな」

そうおじさんはいうと結婚指輪をポケットに入れて立ち去って行った。

残された私は何かお姉さんに話しかける言葉を探していると

「いるんですよ、時々、ああいうお客さん。

何か量りたくなるんでしょうねぇ、うわざらてんびんを見ると。結婚指輪だなんて、笑っちゃう!」

お姉さんのちょっと勝ち誇ったという顔を見ながら私は思った

重い方が勝ちなのかなぁ・・・

責任が重いんだとおじさんはいったけれど、

重い方が軽い方の重荷になるということもあるんじゃないかなぁ、

と呟きそうになるのを咳払いしてごまかした。

堅くなった膝を立て直し、その場を離れながら遠い昔の私がうわざらてんびんが他にも用途があると

思ったのはこういう事だったのではと思った。

”量れないものを量りにかけてあれこれ思うこと”

これがうわざらてんびんのもう一つの使い道なのでは。