糸替え

「いつかそのような婦人になりたいものだ」と3年前、ジュエリーショップで仕事をしていた時、

3連パールのブレスレットの糸替えを承った。

縦長い布張りの箱に入れられていたそのお品は、金具が古いデザインのもので依頼主の年齢を想像できた。

この主の方は随分前にブレスレットをオーダーして作られたと思われる。

当時、3連のブレスレットをパールで作るとは、さぞおしゃれな主なのだろう。

パールの糸替えをし、大事に使われていることに感動した。

こんな風に歳を重ね熟成された婦人になりたいものだ、とすっかり自分もパール3連ブレスレットを作る気満々になっていた。

早速パールの珠を選び、数を決め、金具を決め、ブレスレットは3週間ほどで出来上がった。

嬉しさを噛み締めながら手首にはめて想像した。

「糸替えしてください」と依頼する熟成する自分を。

それはいつの日か、その頃わたしは何をしているのか、と夢見心地で。

ところが糸替えは直ぐにやってきた。

まだ歳は2年しか重ねていない。

なんだなんだ、もう糸替え?

しぶしぶ、緩んだ糸の修理に専門のところに送り、直し終えた品が今朝届いた。

開けると直った品と一緒にパールのお手入れのメモが入っていた。

「糸替えは3〜5年に一度されてください」

なんと、3〜5年で糸替えとは。

こちらの熟成の方が追いつかないかもしれない。