天に近づく準備

テレビを観ていたある晩、横に座る母がテレビを観て言った。

「こうして歳をとると棺に入りやすくなるように背が縮むのよね・・・」。

それを聞いて祖母が亡くなる前の元気なころ背が縮んだと言っていたことを思い出した。

死ぬことをとても怖がっていた祖母はそれでも身体は棺に入る準備をしていたのかもしれない。

ふと横でそのことを呟いた母が今何を想って言ったのか少し気になって話し掛けてみた。

「縮むのが困るなら地下の倉庫に置いてあるぶら下がり健康機にでも毎日ぶら下がっみたら?」。

何とも間抜けな話しをふってしまったと苦笑していた私に母は返した。

「そんなもの、もう当の昔に病院に寄付してしまいましたよ。家にはありませんよ。それにあれ、背が伸びるのではなくて胴が伸びるらしいわよ」。

私は大笑いしたくなったがくっくっくと堪えて返事した。何だ背丈が縮むことよりスタイルのことを気にしていたのか、変な心配してしまった。

そう思いながら棺の続きのことを考えていた。

髪の毛や目が白くなったり、身体から水分が減ったり、歯が抜けたり、確かに人は生きながら歳をとり死ぬ準備をしている。

人は黙っていても自然とどんどん白くなり、軽くなり、雲にのる準備をするのだろう。

人の心はどうなのか。雲にのる頃には白く透明に透き通っているのだろうか。

心だけが雲にのれず置いてきぼり食わないようにするには自分で準備するしかないのだ。

黙っていても自然には白く透明にならないのが心なのだろう。