夜中のタクシー

北国の実家へ帰省。

久しぶりに雪道を歩くと頭の奥にキーンと感じるほどの冷たさが来る。

足元のつるつるに気を使いながら12,3分の道を行き暖かなお店で友人と食事をした夜、

タクシーに乗り行き先を告げた

「札樽国道へいってください。左側の山の手になります」という私に運転手はルームミラー越しに返事をした。

「お客さん、若いのに札樽国道なんていう言葉知っているのかい」。

「若くないですけど・・・・よく祖母が言うのをきいていたので」

「するとあの辺だから水上通りのところを左にまがるのかい?」。

「水上通り?聞いたことのない通り名です」

「昔、屯田兵が開拓をしたときに、あの辺りはリンゴ園でその林檎に水を引く水路があったことから

名づけられたんだよ。私は今では白い車だけど前は黒い車で観光案内の仕事をしていたからいろいろ勉強したんだ」

「そういえば、実家のある土地は元リンゴ園だったと聞いたことがあります」

深夜のタクシーで知らない通りの名や歴史を聞いているうちに、これから帰っていく実家も

本当はあるようでないような錯覚に思えてきた。

この先も昔のことも幻で、今しか今あることは存在しないのだな。

もっと乗り続けていろいろ訊きたかったけれどタクシーは直についてしまった。

今は間違いなく建っている実家の元へ。