とある理由から調理パン工場でアルバイトを3ヶ月ほどしたことがある。
夏の朝6時から12時まで、サンドイッチや、焼きそばパンなどの下準備をするバイトだ。
頭から足まで作業服で隠すので、人知れずバイトができ好都合だった。
少し仕事に慣れたころ、O157が流行、調理パンを作れなくなり仕事をそのまましたい人は自分なりに仕事を作らなければならなくなった。
私はトイレ掃除を、目のキラキラした女性と始めた。
歯ブラシを握りシャカシャカ磨くトイレ掃除は心の修行そのもので、
初日はつい先日までの会社員生活を思い出し自分が情けなく想えてしまった。
二日目も情けなさが残り、トイレ掃除は気もそぞろ。
三日目、窓から顔をだすとすぐ側の大きな川沿いにそびえるポプラ並木が見えた。
太く逞しい幹から天に向かって手を伸ばすような枝がたくさん伸びている。
その枝にある大きな葉が風で揺れ、たくさんの葉が拍手しているようだ。
「よっ!頑張れよぉー」
ポプラが応援している気がして、それから毎日トイレ掃除の時に窓から覗いては元気をいただいていた。
バイト生活が終わるころ目のキラキラした女性と帰りにお茶を飲みに行った。
どちらからかトイレ掃除大変だったね、と話が出た。
私が「毎日、トイレの窓から見えるポプラの木に励まされていたわ」と言うと、「えっ?あなたも?私も毎日あのポプラを見ながら癒されていたのよ」という。
バイトの職場で一番皆が避けていたトイレ掃除を私と彼女が請け負い、お互いトイレの窓から見えるポプラに励まされていたと分かり二人で讃え合った。
それからまもなくして私と彼女は暮らす土地も仕事も接点がなくなっていた。
私はこの過酷なバイトで貴重な経験と出会いを得れたことは神様の計らいかな、と想っている。
そして数年前、目のキラキラした彼女と実に15年ぶりに再会をした喜びは言うまでもない。