「長靴を履いた猫」

10年ほど前にニューヨークから来たという黒に水色の水玉模様の長靴を見かけ

東京でも長靴はこれからは必要と思い買い求めた。

当時、長靴は今程人気はなく、あちらこちらでは売られてなかった。

三軒茶屋に住んでいたころ、豪雨と新築現場ということで濡れた足で上がる訳にもいかないと履かずにいた長靴をデビューさせた。

現場に行くと待ち合わせしていた業者さんが大笑いでいる。

「何なに?」と訊くと私の長靴を指差して言う「どうしたんですか?それ」。

「あ、これ?これからはこういう時代なのですよ」と私。

そういいつつ、内心はあー長靴の購入は失敗だったかなと3万円ほどの買い物をちょっと悔んだ。

その日を境にお蔵入りした長靴はそれでも私のハードな転居に一緒について来ていた。

先日、インテリアフェアがあり200人余りのインテリアコーディネーターが一堂に揃った。

朝からの大雨でこりゃ長靴しかないとお蔵から例の長靴を出し、ずったらずったらと音を立てて重い靴で行ったのだ。

絨毯敷きの会場は長靴のずったら・・・の音が消され、変わりにふくらはぎに当たるパコンパコンという音が響いている。

200名の女性は物の見事にパンプスを履いており、誰一人長靴を履いている人はいない。

ひゃぁー200分の1の確率で私だけ!!と変な感動をしていたが、確かに何とも仕事がしにくい。

さて、どうしたものかと考えあぐねていると、フェアに慣れたインテリアコーディネーターが

別室の控えを教えてくれた。

そこにはなんとお仲間がいるではないか!ずったらの。

200分の1の確率の価値?が薄れ始めたが、そこにいる他のずったらの主は履き替えを用意していたのだ。

そりゃそうだな、と自分の想像力不足を反省しつつ午後からの本番に間に合う様、向かいにある日本橋三越へ走った。

立っていても痛くない靴を探し、ずったらを控え室に置いて何事も無かったように会場に戻った。

お客様をお迎えしながら思い巡らしていた

「あの長靴、あんなに重かったかな?それにしてもあの長靴の形、見たことが在る様な・・・なんだったかな」。

その時、目の前を子供が絵本を抱えて通った。

絵本・・・

「あっ」

このずったらの長靴は私が初めて母に好きな絵本を選んでいいと言われ買ってもらった「長靴の履いた猫」に出ている男の子が履いた長靴にそっくりだった。

余り好きではない絵のタッチだったのに何故それを選んだのか今でも七不思議の一つである。

やはり記憶は頭の中の何処かに根付くのだろう。

10年前に購入する時にこの長靴に目に入ったのもの絵本の長靴が何処かインプットされていたのではないか。

まぁいずれにしても、重く感じるこの長靴ではせいぜい畑仕事くらいにしか出番がないだろう。

あぁ確か絵本の中の男の子も畑仕事していたな。

今年は長靴を買おうか迷っている。