卯波 さようなら

以前、このMy diary に書いたが私が長年行きたかった店、銀座1丁目の「卯波」にとうとう行って来た。

友人のお祝いを兼ねて思いきって店を覗いたのだ。

地下の階段を下りると壁に小さな提灯が掛けられてあった。

「卯波」とだけ書かれたその提灯を見て何気なく「これ欲しいなぁ」と私は口走った。

ドアを開けると50年ほど続いたこの店が明日閉店をするとあって、9人掛けのカウンターと座敷は常連客で一杯だった。だが目の前に丁度帰ったばかりのテーブル席が空きすぐ座ることができた。

梅酒を3杯いただきながら壁に飾られた俳人鈴木真砂女の直筆の句を読んでいるとじんわりと彼女の体温が伝わって来た。

数日前迄は閉店に来れないにしても「いよよ華やぐ」を読んで真砂女を近くに感じれただけで満足していたのだ。まさかこうして卯波に来ることが出来たなんて、まるで好きな俳優さんの楽屋に入ったようなフワフワした心持ちになった。

帰り際に店主に「お疲れ様でした」とお辞儀をすると「何か記念の物でも」と店主は店内を物色し、入り口の提灯を外して「こんなものでもよろしいでしょうか?」と手渡した。先ほど私がこれ欲しいと店に入る前に口走った提灯である。

こんなことってあるのだろうか?

欲しいと思っていた物をいただけるなんて。

提灯を握りしめながら長いこと女将さんだった真砂女が「これどうぞ」と差し出してくれたようで久しぶりに興奮した。

あー、会ってみたかったな真砂女に。

ちょっと残念だけれど、十分幸せな思い出となった。

さようなら 卯波。