桜神

何年かぶりの花見に自転車を漕いで20分程度の場所に出かけた。

丁度満開のころとあって平日でも大勢の人がお昼時間を桜の下で楽しんでいた。

サワサワと風が桜を舞わせピンクの雨を降らせている。

しばし楽しみ、こうして桜を見れることに感謝して帰路に向かった。

たくさんの荷物を自転車に積んでいたせいかあと少しで自宅につくという手前で

お財布や携帯や鍵、運転免許証などを入れたカゴのバックがないことに気づいた。

今来た20分程の道のりで何処で落としたのだろう?????と

自転車の息切れと共に頭の中がくらくらした。

バッグをなくすなんて人生初めてのことで、自分に情けなく、しかし怒る余裕もない。

警察に電話すると気の毒そうに「そういうものはまだ届いていませんねぇ」と花見見物の遺失物は

出てこないですよ、と言わんばかりの返答だった。

取り敢えず来た道を戻ろうと引き返した。

こうして向かっている間にも拾われてしまう。

既に誰かにもう拾われたかな?

ペダルを漕ぐスピードはどんどん早くなる。

桜見物していた場所に着いた。

自転車や人がまだ大勢いたがスポットライトを浴びたようにそこだけ明るく見える。

わたしのカゴのバックがポツンと土の上に座っていたのだ。

驚き駆け寄って開けてみるとそっくりそのまま中身が入っているではないか。

このカゴのバッグはおっちょこちょいの主に落とされじっと40分もここにいたのだ。

「おーーーー、ごめんよ!ごめんなさい。

酷い思いさせてしまって。

でもすごい!奇跡みたい!

どうして無事だったの?

こんなことってあるのかな?」

するとサワサワとまた風が吹いて桜の花びらが舞って来た。

「そうか、桜が見張っていてくれたのかも」

ありがとうございます。

ぺこりとお辞儀して自転車を漕ぎはじめた。

今日のことを忘れないでおこうとバッグに桜さんと名付けた。

あー、本当に。

桜の神様、ありがとうございます。