
確かバブル時代の頃である.
大学を出てから会社勤めをし始めたとき、毎日が怒濤のようにいろいろ起こり、
出社恐怖症になったことがある。
胃痛を伴いながら出社し目紛しい社会の渦に巻かれていた広告代理店時代。
ある日、自宅の居間のテーブル上に小さめの冊子が置いてあった。
父宛に送られて来たものだが、開くと何やらいろいろ格言や悟りのようなことが書かれており、
中の1節に「毎日毎日あらゆる面でどんどん良くなる」と唱えることが状況を変えていくとある。
その時のわたしが求めていた言葉なのか、それをノートに書き写し毎朝目覚めると呪文のように唱えてみた。
効果はもちろんない。
信じていないのだから効果が出るはずがない。
毎日とても大変なことばかりです、良くならないじゃないですか、と嘆いていた。
それでも何年か唱え続けていた。
私はその1節はどこかの天風様か仏様が放った言葉なのかとずっと思い込んでいた。
ところがそれから25年経ち、先日それを誰が説いていたか知った。
1966年に日本で発行されたエミール・クーエの自己暗示という本の一節だったのだ。
この歳月を経て知ることができた喜びとタイミングは偶然ではないのだろう。
すっかり唱えなくなっていた日々を改め朝晩唱えることにした。
「毎日毎日あらゆる面でどんどん良くなる」
「あらゆる面て?」 邪念が邪魔をする。
「あらゆるっていうのは、全てのことでしょ」
「嘘くさい、全て良くなる訳無いじゃない」またまた邪魔をする。
ああ、今の私は唱える前に長い年月で曇ってしまった心の掃除をまずしなければならないようである。