横浜山手の最後夜

「1年ごとに引っ越すのが趣味である」

そんな人、この広い世界に居るかもしれない。

私はここ3年で1年ごとに引っ越しをしているが、さすがに止めたくなっている。

大地に根を這わしたい訳ではないが、せめて植木鉢で良いから根をううーんっと土に絡ませてぬくぬくいたいと最近思う。

そう思うと以前は

「まだまだ飛び回れます!」と言っていたが

この頃の私は

「ええ、歳とったのでしょうね」と素直に受け入れている。

この山手の家に引っ越したのは丁度1年前のことで、

時折聞こえる船の汽笛や、横須賀に向かうバイクの音、

風に乗って薫る磯の香りや、ゴキブリやらムカデやらと賑やかな暮らしを経験した。

思い出多いこの場所だが今夜が最後の夜になった。

あと5時間でさようなら。

1年前にこの日のことは想像できなかったが、人の人生は毎夜最後と思う方がよいのかもしれない。