鳩時計

幼稚園のころから家フェチの私が憧れにしている物がある。

1羽で大きな家に住み、さっさっと鳴いては殆ど扉の向こうで休んでいる暮らし。

その扉の向こうで私の知らない暮らしをしているのではとあれこれ妄想させてくれる存在。

その扉の裏を覗き込んだことがある。

まるで出番を待つ歌手のように直立不動でじっと鳩は扉に向いてたっていた。

「なーんだ、パタリと閉じた瞬間、コロンと横たわっていてもいいのに」

覗いたばかりにあれこれの妄想が消えた。

それでも「大きくなったら居間に鳩時計を掛ける暮らしがしたい」と思っていた。

掛ける環境はなかなか訪れず、未だに私の憧れの物とある。

ま、この歳まで来たのだから手に入らない憧れの物で終わらすのも悪くはないかと最近思うのだ。