旅するスープ

先日、作り手が集う展示会で1週間程仕事をした時のことである。

台風ということもあり外もかなり寒かったが、その会場の中は作り手とそれを見に来るバイヤーやプレスの人やらで情熱と熱気で和気あいあいしていた。

会場の角のテラススペースでサザエさんとドラえもんを足して2で割ったような人がエプロンを着け鍋をかき混ぜていた。

「あそこのスープ屋さんは美味しくていつも完売する」という噂を聞いてわたしは気になっていたのである。

最終日、まだあるかなとドキドキしながら初めて声を掛けてみた。

「鱈とジャガイモのスープならありますよ」とサザドラさん。

カウンターに「trip soup」と書いてる。

どこかで聞いた様な・・・あ、自分のブログのタイトルと似てるかもと思い、グググっとまた心が惹き付けられた。

簡易的に作られた暖かなカウンターにリトアニア製の木で出来ているスプーンや鍋敷きがびっしりと販売用に展示されている。

木が好きで工芸をしていた私の学生時代を思い出した、と同時に気づいたらサザドラさんに話しかけていた。

「わたし、昔、こういうの作っていたんですよ。山から伐採した木の皮を剥ぐところから」

驚いてこちらを見るサザドラさん。

「でもその後、絵本に魅せられ、宙吹きガラスにも興味を持ち・・・今は全然違うことをしているの(笑)。

何も極めれなかったということです」わたしがそういうと彼女は黒の眼鏡フレームの奥からこちらを見て言ったのである

「むしろ、何でもできる才能をお持ちということですよね。それって一つしかできないことよりもっと凄い力だと思います」。

わたしは少し自分の目を大きくしてサザドラさんの肩の丸み、鍋でオタマを回す手つき、準備されたスープのカップを改めて見直した。

ずっと何者かに成れない自分をどこかで残念に思っていたのである。

サザドラさんの言葉は口に含むスープと同じくらい心地よく身体に浸透した。

trip soup.

きっとあちこちで出逢った人を幸せにしているのだろうな。