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秋が来たなと感じるのは鰯雲より甘い香りの金木犀がほのかに風に乗り始める頃だ。
「あー、来た来た。秋が来たな」
訳も無く切なく感じる秋の訪れだが
この香りを鼻の奥に感じるようになると
懐かしく、ほっとするような心持ちになる。
幼い頃過ごした東京の杉並や練馬の街で
どこからか漂うこの香りにつられてクンクンしているうちに
迷子になったことを思い出すと無邪気な自分に
「よしよし」と頭を撫でたくなるのである。
あの香りがしない街に引っ越したときから
私の秋はどこかへいってしまった気がしていた。
あれからこうしてまた、クンクンと香る甘い香りを嗅げるようになり
甘い香りを振りまく木が金木犀というこんぺいとうのような形と愛らしい名を持つと知ったとき
やっと懐かしく、ほっとする秋を過ごせるようになったのである。