手帖

私の使用している手帖は9月から始まるものだ。

一年前のページを開くと

今より南に住んでおり

今より忙しくもなさそうである。

ただ、

1年前は足下に生まれて間もない子犬がおり

可愛がる時間よりも仕事する時間が長く

子犬は遊んでと時々強烈にじゃれて来た。

そのことは手帖に書いている訳ではなく

オレンジ色の西陽の入るリビングで

子犬と私の影が床に写し出され

その情景が記憶に残っているのだ。

あの時の子犬の瞳

あの時の手触り

あの時の心情

あの時の夕焼け

すべてが私のどこかに深く記憶されている。

真に残るものは手帖に書けないものかもしれない。