
開店したお店に全国ネットのテレビ番組の取材を申し込まれた。
早朝の番組だが収録なので歳若いスタッフにお願いした。
その早朝の収録という言葉を聞いて中学1年の新体操をしていた時の収録を思い出した。
その収録は新体操部員の新人5名が選ばれ、NHKのラジオ体操のような番組で画面を向いて簡単な体操をするというものだった。
5人が皆間違えないというにはかなり時間を要し先生も収録現場のスタッフさんも疲れた様子が子供ながらも見て取れた。
「もうこれで最後にしますよ、間違わないようにね」
先生がキツく私達に言う。
あと少しとなったとき、一人の部員がミスをした。
もう最後だから録り直しは出来ない。
その部員は「いやだ、いやだ、こんなの1年間も放送されるのいやだ」と大泣きした。
あまりにもごねたので先生がスタッフさんに誤りもう一度録って終わりにしようということになった。
その部員は救われたような面持ちで最後の収録に臨んだ。
そして何とその最後の収録で初めて私が間違ってしまったのである。
私は無言で下を向いていると「ハイ、お疲れさま」と収録が終わる合図があり、スタジオのライトが消された。
放送されるのは朝6時ごろだった。
自分の間違いを映るのを初めて放送日に見ることになり、家族揃ってテレビに食い入っていたら、一人だけ間違え恥ずかしそうにしているひょろっとした女の子が映った。
間違いなく私だった。
しっかりわかりやすいほど間違えている。
学校に行く元気が半減していると母が追い出すように弁当を手渡した。
それからと言うもの毎朝見なくてもいいのにその番組にチャンネルがあわされているのである。
私は毎日見ているちにすっかり間違いの振りまで覚えてしまった。
まだ家庭にビデオも録画機もない時代だったが今は無性にその間違った女の子を見たくて仕方がないのである。