方向性

シャワーを浴び好物の枝豆と冷えたシャンパンを手にやれやれとソファに腰かけたら電話が鳴った。

遠くに住む姉からである。

話しの流れで、私が元恋人や元婚約者や元○○とまるで何ごともなかったように「久しぶりね」と会える関係を「あなたは不思議な子だね」と母に先日言われたことを話した。

私は男女関係が成立しなくなっても、素敵な人と巡り会えたことは誠に嬉しい話しで、人と人の縁を大切にしたいと思う質である。

中学生から女子校で育った環境がたたり、いつも男性とぎくしゃくしていた。

3年生の時、好きだった男の子から交際を申し込む手紙が来た。

「付合うと別れがくるのは嫌なのでずっとベストフレンドでいたいな」と返事を書いたらそれきり連絡がこなかった。

ああ、早く大人になって男も女も関係ないようになりたいものだと願っていたのである。

 

姉に「私の葬式に元の人たちが皆集まって私の慰霊の前で思い出話しなんか話してくれるの、夢だわァ」と言うと、

「きっと皆、口を揃えて同じことをいう気がする」と姉が笑うので

「私ね、そんなこと言っても、実は誰よりも長生きして結局皆を看取る気がするのよね」と続けた。

すると姉が「多分、あなたは宇野千代さんみたいになると思うのよ」と言う。

否定しながら高校2年生の頃を思い出した。

居間で夕食を摂る父に「私、将来は宇野千代さんみたいになりたい」

読んだばかりの本に感動して口に出した。

すると父は喉を詰まらせながら「宇野千代、勘弁してほしい」と応えたのだ。

他の千代さんの本を読んでみると血のりの布団に寝たりと若い頃は仰天行動が綴られており、

こりゃあ父が勘弁してと言う筈だと苦笑したことを姉の言葉で思い出した。

父は私が40歳を過ぎた頃から時折言う

「お前の人生は想像がつかんな。どんな人生を歩むんだか、まぁ見届けることはできないから、後は自分の責任で生きて行け」と。

やはり父の目にも私に千代さんの影をみていたのだろか。