中秋の満腹

帰りの夜、長い坂道を上っていたら私の影がくっきり道に伸びている。

月が凛々と輪を放つように光っている。

自分より随分細見に写る影を背の高い男の子みたいだなと笑っていると数時間前に食べたオムライスを思い出した。

レストランに着くなり、私の目にボリュームのある黄色の丸く包まれたオムライスとトンカツが添えられているメニューが飛び込んで来た。

「これしかない」席について直ぐさま注文をしたが、ここ最近ボリューム感のあるものを食べていないが大丈夫だろうかと不安になった。

何よりオムライスとトンカツの組み合わせという育ち盛りの子供が喜びそうなメニューを人生初の注文したことにドキドキしていた。

目の前にメニューとそっくりだが少しトンカツの具合が違う料理が届いた。

ケチャップ以外で食べるオムライスの味はまるでインド人がヨーロッパに留学した後に日本に来て作ったような味で全く馴染みがない。

食べ進めていくうちにオムライスに寄りかかるトンカツが不自然に思えフォークで皿に寝かせてみた。

オムライスを三分の一まで食べ終えた頃、私のお腹は丸身を帯びだした。

「多くて食べれないな」

頭を過るが手を付けていない反対側のオムライスの端の卵がこっくりと黄金色に輝いているのが何とも気にかかる。

「真ん中を食べず行きなり端を食べようかな」それでは行儀が悪いと首を振る。

意を決し外を眺めながらパクパクとリズムを刻んで半ば強引に口へ運び続けていたら完食はできたがお腹は満月のように真ん丸になった。

消化するのに何時間かかるのだろ、席を立ちやや背をそるようにして歩き出した。

坂道に伸びる影がお腹まで写らなかったことが幸いであった。