余市の香り

北海道余市の葡萄を友人からお裾分けでいただいた

つい先月末に約40年ぶりに再会した余市に住む父の姉のことを思い出した

父は生まれてから二つ違いの姉のことを知るまで20年かかったそうだ

40年ほど前、わたしは父母と姉の四人で乗り馴れない車でクネクネ曲がる海沿いの道路に従い余市に向かった

車に弱かった私は何とか酔わずに辿り着き、降りるなり大きく深呼吸をすると磯の香りが胸一杯に入ってきた記憶がある

家の入り口にはクルクルと回る赤青白の看板がある

父の姉は美容師でその夫は理容師だった

何故か家に入ってからのわたしの記憶に色はなく、すべてがグレーの映像として残っている

「子供はあっちへ行ってなさい」と姉と居間から追い出され

夕方になると「帰るよ」と車に乗せられた

それからは二度とそのクルクル回る看板のある余市の家に行くことも

父の姉の話しも無かった

親から同居する義理祖父母の前で話してはいけないと言われた訳ではないが子供心に話してはいけない気がしていた

義理祖父母が亡くなってから交流があったのだろう

この夏、もう健康で家族揃って会うこともないでしょうということになり

父の運転する車で4人揃って40年ぶりに余市に行ったのである

母がいそいそと台所に立ち洗剤はどこにあるかと尋ね

茶碗を洗っているのを不思議な気持ちでみていると

その娘もしないといけないとばかりに姉も手伝い始めた

父と父の姉とその夫はリビングに腰掛けて談話している

今度は姉と交代し私が台所に母と立った

40年ぶりに再会し会話もそこそこで人の台所に立つことに私の心は複雑な気持ちでいっぱいになった

私は帰りの車中で複雑な気持ちになるのは自分の心が小さいからだと戒めた

と同時に複雑になった真意を追求せずにおこうとしている私もいた