山手の下り坂
少し秋に傾いた陽射しを感じながら仕事の電話を携帯で話し歩いていた
40度に腰を曲げて歩いている老人が前に見え道の真ん中で危ないと思った瞬間
その老人はコマ送りのようにわたしの目の前で崩れて倒れた
携帯と鞄を放り投げ駆けよると90歳近くのおばあさんだった
「具合悪いんですか」
「病院にお連れしましょうか」
声を掛けている私の横をバイクが車が除けながら通り過ぎる
帽子をかぶったおばあさんはゆっくりと顔を上げこちらを見た
じっくり見ながら
「買い物にいくところです」と言った
道の真ん中から外れるのに両手で身体を支えると、今にも折れそうな細い骨が痛々しく起こそうとしてもおばあさんは足に力も入らず崩れてしまう
救急車呼んでもいいですかと聞くと首を横に振る
誰も助けがないならオンブするしかないと覚悟を決めたとき
「あれ、渡部さんじゃないの」と男性の声がした
バイクから降りて来たその男性は数ヶ月間このおばあさんの家にホームヘルパーの仕事で行っていたという
聞けばこのおばあさんのご主人は3ヶ月前に亡くなり
依頼ホームヘルパーは来なくなり、住んでいた娘も出て行き一人暮らしという。
3ヶ月ぶりに今日外出をしたらしい
坂を下ると交番があるのでそこで休みましょうと男性と二人おばあさんを支えて下った。
交番につくなりおばさんの帽子をとり扇いだ
おばあさんは顔を上げまたわたしの顔をじっと見つめながら
この方が助けてくれたとおまわりさんにか細い声で話した
わたしはお水をくださいと頼みおばあさんに小さな飴と差し出した
交番を後にしながらおばあさんの瞳がどこかで観たことがある気がした
そう、確かあの目は
亡くなった祖母があの世とこの世を行ったり来たりし始めた頃、うつろで白いモヤのかかった瞳と同じだ
少し暑さが和らいだ秋空の下、思い切って出かけたのだろう
下り坂でなければ転ばなかったのかもしれない
どうしているかと今夜は帰りの坂がやけに長く感じた。