貝を手に

海に行くと貝殻を拾う癖が在る

この貝殻がどこで生まれ、

どのようにしてこの海岸へ辿り着いたのだろうと

そのルーツに想いを馳せるのが好きだ

そして貝の模様が唯一無二のところも

 

 

材木座の海岸

夏を名残惜しむ人々が

高くなった空の下集っている

足の裏で感じる懐かしい砂の感触

足下に流れ着く小さな貝達

爪程もない大きさの貝たちは水を求めて身を翻し

慌てて砂に潜り込む

この大海で流されまいとしている

わたしは主のいない貝殻を海から拾う

一つ、また一つ

手の平にのせながら

竜宮城にいるような真っ赤な貝殻を拾い驚いていると

サーフボードを持った男性が近寄って来た

手に持っている大きなハマグリを差し出し

差し上げますという

ここが都会の街中なら

不信な男性に素通りしていただろう

私は赤い貝殻を握りしめていないもう一つの手を差し出した

厚い殻が重たそうに何か大事な物を包み込むように

閉じたまま動かない

夕陽に照らされ男性にお礼をいった

初めて人から貰った貝

しかも生きている

ここで私が留めたら

この貝のルーツはこれで終わるのだろう

あなたが生きているなら続けて欲しい

ルーツを作る旅へ

思い切り遠く海へと投げ放した

もしどこかで再会したなら

材木座の海岸で会ったと囁いて

でも再会は望まない

あなたはわたしの手の平に初めて来た

生きた貝