
父の前で1度だけ泣き崩れたことがある。
その夜、初めて私は父に支えられ部屋まで連れてもらった。
当時私は22歳。
別れを告げた相手から電話が掛かって来たことが切っ掛けだった。
一方的な相手の話しに、父が電話を代わって言った
「私は君のことは好きだけど、やはり自分の娘を信じるよ」
その言葉は突っ張っていた私の膝を突いた。
彼の嘘は酷く私を傷つけたけど
私は嘘を言わなかったことで傷つかず済んだ。
電話を切った後「お前が一番辛かっただろう」
そう言って父は私の頭をポンポンと叩き部屋まで支えた。
私は貝に住む生き物みたいに
時々飛び出しては貝に引き戻る。
安心できる場所。
今では泣き崩れることはもう無いけれど
時折、見えない貝を背に探すことも無い訳ではない。