硝子と浮き球

海を観にいこうと思い立ち友人とバスに揺られ宛も無く降りた街、余市。

初めて見る漁港の風景。

小さな小舟がか細いロープで繋がれている。

まるで小屋に繋がれた老犬のように。

ひっそりとして人の気配がしない。

小波の音だけが耳にぶら下がる。

会話少なく私達は飛び出して来た美術学校のことを気にしている。

「デッサンのイーゼルをそのまま立てて来ちゃった」

「帰ったら何ていわれるだろう」

「そもそも何で海が観たくなったのかな」

「他の学生は暑い中でも描いているんだろうな」

靴を脱いで裸足で砂浜を歩く。

まだどこの大学を、どの学部を受験したらよいか考えあぐねていた。

何より自分が何になりたいか知りたかった。

トボトボと歩いていたら小さな商店街についた。

「のど乾いたね」

お店に入ってガラス瓶のラムネジュースを求め、店の中を見渡すとラムネの瓶の中にあるガラス玉を大きくしたものが飾られている。

「浮き球」と出会った。

「これ、何に使うんですか」と尋ねるとおばあちゃんが昔それを海に浮かべてブイとして漁師が使用していたと教えてくれた。

「これを船に積み込むだけでも割れてしまいそうなのに昔の人は大変だったんだな」

手鞠程の大きさの浮き球がスイカを持ち帰る時のネットのような網で包まれている。

連れて帰りたくなった。

1個ブラブラとぶら下げながらバスに乗る。

美術学校には戻らずわたしは家に帰った。

しばらくの間、窓から吊るしたり、棚に座らせたりして飾っていた。

「この浮き球を作った人は今何しているんだろ、生きているのかな、幸せかな」

夏は過ぎたのか空が高くなっていた。

もう30年も前のこと。