野菜を育て、食べる生活(1)

北海道に移り住んだ時から、父と散歩がてらに山を登っては、木の実やキノコや、山菜のことを教わりました。

気づくと側にいた父が見当たらなくて、実は落葉キノコを追いかけていなくなっていた、なんてこともありました。

その父が退職して64歳の時に車で20分のところに畑を購入しました。

100坪程の土地は空と山しか見えない少し傾斜のあるところです。

真っ黒い有機の土をいれ、白樺などを集めて柵をつくり、休憩できる小屋も作りました。

足のくるぶしまで埋まるふかふかの土に抱かれて、野菜の種は気持ち良さそうに育ちます。

芽が出た時、野うさぎや狐に食べられてしまったという経験をしながら、

父はどんどんプロ並みに野菜を作れるようになりました。

北国なので五月の連休前の雪解けごろから畑を耕やし、種や苗を植えるのですが、時々手伝ってくれるおじさん以外には母と二人でしています。

母は畑仕事はあまりすきではありません。

肌が敏感なのでカサカサ、カユカユになってしまうのですが、文句言わずに、父に厳しく注意されながらも手伝います。

畑を始めた頃、昼過ぎでも畑にいたので、母はウニやいくらのおにぎり、お漬け物やお茶を用意します。

そのおにぎりの味は今でも忘れられません。

いつものおにぎりなのですが、畑仕事の後に、頭の上で鳶が回り、うぐいすの声を聞き、そよ風に吹かれながら眩しい緑の木々を見ながら家族で食べるおにぎりは格別な味でした。

先日、お正月に帰省した私に今年79歳になる父が言いました。

「80歳迄は頑張るが、その後は身体が辛いからやめる」

畑仕事はトラクターが通れるような場所ではないので殆ど人力でしています。

夏になると父は身体のあちこちを痛めて湿布だらけだと母から聞いていたので、むしろ78歳までよく続いたと思う程です。

父が畑をできなくなるほど年老いたことに改めて気づかされましたが、精魂こめて育てた畑を終わりにする無念も感じました。

そして父は「この先、地球もいろいろ環境の変化が起こり食料難になるからこれだけの畑があればお前や家族の食料くらいは確保できるだろ」と言いました。